繊維業の上乗せ4要件に新たな体制 ― 監査要綱「JASTI」が始動
繊維分野では、「上乗せ4要件」と呼ばれる独自の基準が設けられており、これに対応することが特定技能外国人の受け入れ条件となっています。具体的には、①国際的な人権基準に適合した事業運営、②勤怠管理の電子化、③パートナーシップ構築宣言の実施、④特定技能外国人への月給制での賃金支払い、の4項目です。(詳細は、ECO-NEWS Vol.040(2025.1.17配信)をご覧ください。▶ https://eco.coop/archives/posteconews-article/7292)
このうち、①に関しては、すべてが国際機関によるものでしたが、日本国内の新たな認証・監査制度として、2025年4月に「JASTI(ジャスティ)」が本格始動しました。JASTIは「Japanese Audit Standard for Textile Industry」の略称で、経済産業省の主導のもと、ILO(国際労働機関)や日本繊維産業連盟などが関与し策定されました。他の認証制度と同様、企業の労働環境や人権配慮の体制を評価し、外国人材の適切な受け入れ体制を整備することを目的としています。
既存の監査基準とどう違う?JASTIの位置づけ
これまでは、要件を満たすために、GOTS(原料の70%をオーガニックであることが求められる)や、Bluesign(製造過程において使用される化学物質の管理や、排出物の削減を求められる)などの国際的な認証を受ける必要がありました。これらは人権基準に特化したものではなく、製品や製造工程全体に焦点をあてた制度であり、さらに、取得のコストや手間も含め非常に高いハードルとなっていました。
そこで、製品ではなく「雇用環境」に焦点を当て、労働時間・賃金管理・福利厚生・教育体制など、特定技能制度との整合性を意識した実務的な監査内容としたJASTIが登場したわけです。JASTIでは監査項目ごとに重要度を設定し、違反内容に応じて「A判定」「B判定」「判定なし」が付与されます。特に初回監査では、対応が難しい建屋・設備面などの重要度が低い項目は評価への影響が軽微となるよう設計されており、初めて監査を受ける企業でも取り組みやすい仕組みとなっています。
一方で、改善を促す観点から、2回目以降の監査では重要度が低い項目も評価に反映され、企業の継続的な努力が求められます。また、監査レポートの有効期間は設けず、判定に応じて更新時期(A判定:2年後、B判定:1年後)の目安が設定されることで、制度対応の確実性と透明性を担保しています。
JASTI監査の申請方法とサポート体制
JASTI監査は、繊維業界における第三者機関によって実施されます。現在、以下の機関が認定監査機関として対応しています。
○一般財団法人 ケケン試験認証センター(JWIF)
○一般財団法人 カケンテストセンター(KAKEN)
○一般財団法人日本繊維製品品質技術センター(QTEC)
たとえば、QTECによると、監査にかかる費用は税別で約20万円とされており、監査員が前泊・後泊を必要とする場合には、別途5万円程度の追加費用が発生する見込みです。また、監査に備えて、社会保険労務士による事前コンサルティングを活用することも可能です。労務環境や体制整備について事前に確認しておくことで、監査当日の対応がスムーズになります。ただし、監査とコンサルティングは分離されているため、監査を実施する社会保険労務士が、事前の助言や改善指導を兼ねることはできません。
監査を実施する社会保険労務士は、全国社会保険労務士会連合会が認定した「JASTI監査対応社労士」の中から選定する必要があります。自社の顧問社労士が対応可能か、事前に確認しておくことが必要となります。
なお、上記3つの監査機関は本年4月1日より監査の受付を開始しておりますが、まもなく、「一般社団法人ボーケン品質評価機構」が加わるほか、7月1日からは、全国社会保険労務士会連合会(JASTI監査対応社労士)も加わる予定です。
JASTI監査の準備期間中も「特定活動」への在留資格変更で継続就労が可能
JASTI監査の申し込みから認証取得、協議会に加入するまでは、一定の時間がかかります。その間、企業が特定技能制度を利用する準備を進めていることが明らかであれば、在留資格を「特定活動(6か月)」へ一時的に変更することで、引き続き育成就労外国人等の就労が認められる運用が行われています。「特定活動(6か月)」は1度のみ更新が可能で、最長1年間の準備期間が可能となります。